Amazonが取次を通さずに、出版社と直接取引を拡げていくようです。
いよいよ書籍流通の仕組みのガラガラポンが始まります。
アマゾンジャパン(東京・目黒)は、出版取次を介さない出版社との直接取引を広げる。自ら出版社の倉庫から本や雑誌を集め、沖縄を除く全国で発売日当日に消費者の自宅に届けるサービスを今秋までに始める。アマゾンによる直接取引が浸透すれば、取次や書店の店頭を経ない販売が拡大。書籍流通の流れが変わる節目になりそうだ。
埼玉県所沢市に1月、設立した「アマゾン納品センター」を直接取引専用の物流拠点として使う。アマゾンが用意したトラックが出版各社の倉庫に集荷に回る。書籍は新設した納品センターに集約し、全国5カ所に開いた電子商取引(EC)用の倉庫に転送して消費者に届ける。
これまで直接取引するには出版社がアマゾンに納品する必要があった。このため物流機能が乏しい小規模の出版社の書籍は集荷できず、発売日当日の配達が難しいエリアがあった。
アマゾンは本格的なサービス開始に向け、出版社の参加を幅広く募る。すでにKADOKAWAなどが参加しており、複数の大手出版社と交渉をしているもようだ。
直接取引により、新刊本などが発売日に自宅や指定の場所に届くようになる。さらに消費者が在庫切れの書籍を発注した時も1~2日で届く。取次を経由すると1~2週間ほどかかっていた。
取次とは
出版業界の方でないと、取次と言ってもピンとこない方も多いと思いますので、取次についてかんたんに説明します。
取次とは、出版取次の略で、出版社と書店をつなぐ流通業者のことを指します。具体的には、書籍や雑誌を出版社から仕入れて、全国の書店に書籍を搬入するという、書籍の問屋の役割を果たしています。
トーハン・日本出版販売・大阪屋の3大取次が業界を仕切っています。
取次の株主構成
取次の大手3社の株主構成を見ていきます。
- トーハン・・・講談社、小学館、文藝春秋、集英社、学習研究社、新潮社、旺文社、東京三菱UFJ銀行
- 日本出版販売・・・講談社、小学館、日販従業員持株会 、光文社、文藝春秋、三井住友銀行 、KADOKAWA、旺文社
- 大阪屋・・・楽天、大日本印刷、KADOKAWA、講談社、集英社、小学館
大手出版社が主要株主なんですよね。
書籍の流通量を支配している取次
取次は、書籍の流通量を支配しています。
どういうことかというと、全国の書店に対して、書籍の配本を仕切っているのです。
2015年の時点で、全国に13,488の書店があります。取次は、全国にある書店の売上データを握っていますので、過去の書店のデータを元に、「どの書店に何冊配本するか」ということを決めています。
販売実績のある大型書店には新刊が大量に並び、販売実績のない小さな書店には新刊がほとんど配本されません。
地方に行くと、新刊が大量に並んでいるのは駅前の大型書店だけで、駅から離れた小さな書店には、新刊がほとんど並ばないのは、このような事情があるのです。その結果、地方のユーザーはAmazonでポチることになるのです。
先程見てきたように、取次の主要株主は大手出版社ですから、大手出版社から発行される書籍は、全国の書店に配本されて、売上が上がるという仕組みになっています。
書籍流通の仕組み
取次を経由した書籍流通と、Amazonが直接出版社と取引した場合の書籍流通を比べます。
取次を経由した書籍流通
紙の書籍流通の仕組みについて説明しますね。
書籍が消費者に届くまでの書籍流通は、以下のような流通経路になります。
- 著者→出版社→取次→書店→消費者
今回、Amazonが直接出版社と取引することで、今までの取次を経由した書籍流通の仕組みが変わっていくことになります。
Amazonも取次経由で書籍を販売している
今の時点では、実はAmazonも取次経由で書籍を販売しています。
日販、大阪屋、トーハンの全てとAmazonは取引をしています。
- 著者→出版社→取次→Amazon→消費者
Amazonが取次経由で書籍を販売する弊害
在庫切れというリスクが常にあります。
例えば、弱小出版社が新刊を出す場合、実績がほとんどないので、Amazonに入ってくる書籍数もごく僅かです。
で、新刊がインフルエンサーの間で話題になったりすると、新刊なのにAmazonで在庫切れという事態になってしまうのです。
Amazonが出版社と直接取引した書籍流通
取次と書店が不要になります。
- 著者→出版社→Amazon→消費者
Amazonが出版社と直接取引するメリット
Amazon、出版社、ユーザーの3者にメリットがあります。
Amazonのメリット
Amazonは、取次を通さずに出版社と直接取りをすることで、取次への手数料を支払わなくて済みます。
また、出版社から直接書籍を納入できるので、在庫切れの期間を短くすることが可能です。
出版社のメリット
取次への手数料を支払わなくて済みます。そのかわりAmazonへの手数料を支払うことになるんだろうけど・・
Amazonで在庫切れの期間を短くできます。
ユーザーのメリット
Amazonで書籍が在庫切れになりにくく、欲しい書籍がすぐに手に入ります。
Amazonが巨大取次になる
Amazonが出版社と直接取引を拡げるということは、Amazonは巨大取次になるということです。
Amazonは、2016年1月から既存の取次を外した出版社との直販について、出版社へ説明会を開いています。
アマゾンジャパンは1月28日、東京・目黒の目黒雅叙園に販売契約協力している出版社などを集めて、2016年の方針説明会を開催した。
「説明会では、『YES 直取』という合言葉を掲げて直取引の説明をしていましたが、直取引の拡大が最大のテーマでした。なんと現在より直取引出版社数を2倍にしたいというから驚きです」(出席した出版社社員)
どうやって出版社からAmazonの倉庫へ書籍を運ぶのか?
今の段階では、Amazonが準備したトラックが、出版社の倉庫に集荷することになっています。
でも、米Amazonでは、すでにuber Xのような一般ドライバーに配送を委託しているようです。日本でもシェアリングエコノミーが普及したら、一般ドライバーに委託することになりそうです。
米オンライン小売り大手アマゾン・ドット・コムは、最近導入した近隣にいる一般ドライバーに急ぎの配送を委託する仕組みを拡大し、通常の商品宅配にも取り入れようとしている。低価格とぎりぎりの営業利益率で知られる同社の狙いは、配送時間を一段と短縮し、拡大し続ける物流コストを抑え込むことだ。
昨年始めた「アマゾンフレックス(Amazon Flex)」は、米配車サービス「ウーバー」方式で、近隣にいる一般ドライバーに委託して商品を素早く配送する仕組み。年会費99ドルの有料会員サービス専用の携帯アプリ「プライムナウ(Prime Now)」を通じて注文された家庭用品をスピーディーに届ける手段となっている。
Amazonと出版社の直接取引に、取次が従わざるを得ない事情
取次の売上は毎年減少しているにも関わらず、Amazonの売上は伸びています。
ネット通販において、Amazonの影響力はめちゃくちゃ大きくなっているので、Amazonが出版社と直接取引をしても、取次は従わざるを得ないのです。
取次の売上
2005年と比べると、2015年の取次の売上は、7割くらいに落ちています。
帝国データバンクの数字を見てみましょう。
- 2005年 2兆3117億2500万円
- 2013年 1兆7958億6800万円
- 2014年 1兆7620億4400万円
- 2015年 1兆6354億900万円
日本のAmazonの売上
日本のAmazonに売上は1兆円近くあります。
この内、書籍の売上は公表されていないので分かりませんが、数千億円規模であるはず。
出版社がAmazonと直接取引すると、今後どうなる?
Amazonが出版社と直接取引をするというのは、短期的に見ると、弱小出版社の売上は上がります。
だって、今まで取次経由の流通では、Amazonで在庫切れになったら1〜2週間は在庫切れの表示だったわけですからね。
これが1〜2日でユーザーのところへ届けられるようになるので、機会損失のリスクを減らすことができます。
しかし長期的な視点に立つと、Amazonで売れるからと言って、Amazonに販売を任せてしまうと、Amazonに、自社の生存権を委ねてしまうことになります。
Amazonが、書籍取扱の手数料を上げたら、出版社の経営が成り立たなくなると思いますよ。
出版社の皆様は、短期的には出版社の売上は上がるけど、長期的には冬の時代を迎えることになるということを、肝に銘じておくべきです。
これは、ネット通販の業者が、楽天市場に依存した場合と全く同じ構造です。
1997年に楽天市場がリリースした直後は、楽天への手数料はリアル店舗へ出店するよりも遥かに安かったので、小売店の利益は高かったはずです。
でもね、ネット通販の業者が楽天のプラットフォームに依存していった結果、売上の大部分を楽天市場で占めるようになってどうなりましたか?
プラットフォームである楽天は、「手数料を上げる」「アフィリエイトの広告費」を小売店から取るようになりましたよね?
同じことがAmazonと出版社との間で起こることは間違いないのです。
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