自動車のテクノロジーは、ハードウェアもソフトウェアも大きく変わっています。
ハードウェアを見れば、車の技術の根幹であるパワートレインが、ガソリンから電気に変わりつつあります。電気自動車の場合、1/100〜1/300の部品点数になるので、途上国でも簡単に電気自動車の製造が可能になります。
ソフトウェアを見ると、AIを使った自動運転技術が、ものすごい進化を遂げています。おそらく、2020年の東京オリンピックには、完全な自動運転であるレベル4のタクシーが走行していることでしょう。
自動運転の技術には、AIでの制御が必須になるにも関わらず、自動車メーカーによるAIへの投資額は、GoogleやFacebookと較べると1/10以下なのです。
今日のエントリーは、自動車メーカーが、AIへの研究開発に、全然投資していない現状についてお話します。
自動車メーカーの研究開発費
2016年度の研究開発費は、過去最高の模様。
大手自動車メーカー7社合計の2016年度の研究開発費が、15年度比2・4%増の2兆8020億円と、過去最高となる見通しとなったことが23日までに分かった。環境規制に対応するためのエコカー開発のほか、自動運転などの新たな研究が増えていることが背景にあり、今後も膨らむ傾向は続きそうだ。
1位 トヨタ 1兆700億円
2位 ホンダ 6900億円
3位 日産自動車 5600億円
4位 スズキ 1400億円
5位 マツダ 1250億円
6位 富士重工業 1200億円
7位 三菱自動車 970億円
圧倒的にトヨタの研究開発費が高いです。でも、研究開発費の大部分を占めるのは、自動車のハードウェアに対する投資になります。
ハードウェアへの研究開発の割合が高い
自動車メーカーの場合、「電気自動車」「PHV(プラグインハイブリッド)」「FCV(燃料電池車)」「ガソリン車の低燃費対応」「ガソリン車の環境対応」など、自動車のハードウェアに対する研究開発費の割合が多いです。
今までの自動車メーカーのアドバンテージって、エンジンに対するノウハウでした。
例えば、ファミリーカーならいかに少ないガソリンで長距離を走ることができるとか、スポーツカーなら同じ燃料でどれだけ馬力を出せるかといったことです。
でも、電気自動車になれば、シャーシにモーターとバッテリーを載せるだけなので、中小の自動車メーカーが乱立することは目に見えています。技術の陳腐化で、自動車は誰でも組み立てられるようになります。
今、自動車メーカーが投資すべきは、自動車の制御に関するソフトウェアなんですよね。
ところが、自動車メーカは「自動運転」「AI」といったソフトウェアへの研究開発費に予算を割いていないのです。
自動車メーカーはAIへの投資比率が低い
自動車メーカーは、これだけ潤沢な研究開発費があるんだから、もっとAIを使った自動運転制御の開発に投資するべきですよね?
以下、自動車メーカーによるAIへの投資状況をまとめました。研究開発費と比べて、いかにAIへの投資額が少ないか分かります。
トヨタは、2016年1月、シリコンバレーにAI研究開発拠点「Toyota Research Institute」(TRI)を設立しました。5年間の予算が1200億円ということは、年間240億円の研究開発費になります。年間1兆700億円予算があるトヨタにとって、年間240億円の投資は、わずか2%です。
トヨタ自動車は2016年1月に人工知能(AI)の研究開発を担う新会社を設立する。米シリコンバレーに本社を置き、5年間で10億ドル(約1200億円)を投じる。AIにはグーグルなど米IT(情報技術)大手が重点投資している。トヨタも本格的な研究体制を整え、自動車やロボットなど幅広い分野での応用を目指す。
「AIとビッグデータが要素技術となり、生活や社会を大きく変える可能性を秘めている。自動車に加え、様々な産業を支える」。6日に開いた記者会見で、トヨタの豊田章男社長はAIの重要性を強調した。
トヨタはAIの有力研究機関である米スタンフォード大学に近い米カリフォルニア州パロアルト市に「トヨタ・リサーチ・インスティテュート」を設立する。米ボストンや東京にも拠点を開く予定だ。当面、200人の研究者を確保することを目指す。
↓TRI設立前のAI技術を持ったスタートアップの買収です。
トヨタ自動車は、AI(人工知能)技術開発のPreferred Networks(PFN)に出資する。2015年12月30日付で、PFNが第三者割当増資で発行する株式をトヨタ自動車が引き受ける。トヨタ自動車はこの出資を通じ、PFNが強みとするディープラーニングなどの機械学習技術を生かし、自動運転などモビリティー分野を中心に共同研究・開発を進める。
出資金額は10億円、出資比率は3%で、PFN本体の評価額は約330億円となる計算だ。トヨタ自動車は、出資比率で第4の株主となる。
↓年間わずか12億円の投資です。
トヨタは5年間でおよそ5,000万ドル(約60億円)を投資し、カリフォルニア州にあるスタンフォード大学とマサチューセッツ州ケンブリッジにあるMIT内にそれぞれ研究施設を設立する。
研究開発費では、トヨタに次ぐ2番手のホンダも、AIへの投資は消極的な感じがしますね。
ホンダとしては、トヨタほどの大規模な新規投資ではなく、既存のHRIを強化する方法を選んだ。テレビ、新聞、ネットのニュースでは、「そういう見方」をする向きが多い。
テスラの人工知能への投資
テスラのAIへの投資額を見ると、自動車メーカーというより、シリコンバレー企業ということがよくわかります。NPOに10億ドル(1200億円)をポンと寄付するのは凄いですね。
米テスラモーターズCEOのイーロン・マスク氏はじめ、シリコンバレーの著名なIT起業家・投資家、それに企業が人工知能(AI)研究を行うNPOに合計10億ドル(約1200億円)もの資金を寄付すると11日発表した。
Googleの人工知能への投資
今度はIT企業の人工知能への投資を見ていきましょう。自動車メーカーのAIへの投資額と較べると、桁違いな投資額です。
2015年にGoogleが人工知能へ投資した金額は多く見積もっても4200億円。
グーグルの決算によれば、ディープマインドを含む検索事業以外での損失は約4200億円。このかなりの割合が、人工知能技術に関連する投資だと考えられます。
↓2014年のGoogleによるAIへの投資額は1500億円なので、この1年で倍以上の金額をAIの研究開発費に使ったことになります。
グーグルの研究開発費(R&D費)は約5000億円。グーグル本社近くにある研究所「X Lab」の3分の1は人工知能関連の研究をしていると言われている。つまりグーグルは約1500億円を人工知能に使っている計算になる。
Facebookの人工知能への投資額
Facebookは、売上の1/3を研究開発費に投資しています。
ちなみに、2015年のFacebookの売上は、179.3億ドル(約2.1兆円)あるので、1/3ということは、7000億円近くを研究開発費に投入していることになります。
AIへの投資の割合は分かりませんが、トヨタみたく2%ってことはないだろうね。5割をAIへ投資しているとすると、3500億円になります。
WhatsApp ($22B) , Oculus ($2B) など大型のM&Aを行う一方で、Facebookは自社でのR&Dにも非常に力を入れており、直近四半期では売り上げの約1/3もの資金を投下しています。中でも、最近は「人工知能」分野での動きが非常に活発です。
2013年にDeepLearningの権威であるNYUのYann LeCunを招いて、Facebook AI Research ( FAIR ) をNYに作ったのを皮切りに、先月にはパリにも研究所を開設しています。Facebookの人工知能の研究所は、シリコンバレーとニューヨークとパリの3ヶ所あるのです。
日本政府の人工知能への研究費
これに対して日本政府の人工知能への研究費はわずか64億円。
政府の人工知能に対する取り組みを見ると、絶望的になります。2016年度は100億円の予算をつけるようですが、文部科学省、経済産業省、総務省の3つの役所に予算をつけても、役所は事なかれ主義だから、絶対にうまく行きませんって。
政府は人工知能(AI)の研究開発を加速するために、文部科学省、経済産業省、総務省の3省で今年度、計約100億円の予算を投じる。3省での研究開発の足並みを揃えて産業化を推進していくとして、その中核に「人工知能技術戦略会議」(議長:安西祐一郎・日本学術振興会理事長)が今月発足した。そこで4月25日、3省連携の本格稼働として、「第1回 次世代の人工知能技術に関する合同シンポジウム」が日本科学未来館(東京・お台場)で開催された。
まとめ
自動車メーカーと比べると、GoogleやFacebookによるAIへの投資額が、桁違いに多いということが分かります。
自動車メーカーは、研究開発費の予算を潤沢に持っているんだから、AIへの投資をもっと進めていくべきです。そうでないと、数年後、生き残っていけなくなりますよ。
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